日本の都市生活者の主流は借家。

「東京物語」が制作されたのは、1953(昭和28)年だ。小津安2郎は近年海外でも評価が高い、日本映画史上に名を残す監督だが、彼の作品のほとんどは家族を主題としたものだ。家族の団築の風景と住まいとの関係を考えるうえでも、彼の作品は興味深いものがある。先に、家はそこに住む家族の人間模様を織り成すライフステージであると述べたが、小津映画の家族の舞台設定は、木造2階建ての借家とおぼしき家屋が多いように思える。30代前半で家を持てるようにする、というのが私たちの目標だが、家は持つのではなく、借りるものだという考えが、小津作品に示しているように戦後も日本では一般的だった。評論家で英文学者の吉田健一の随筆に「家を建てる話」という作品がある。1954年に発表されたものなので、「東京物語」の翌年だ。そのなかに、こんな記述がある。「実際、あの頃までは家を1軒借りて、家賃を払っていさえすればそこに住んでいられたのであるから、昔は家を建てたりする馬鹿はいなかった。だから、家を建てるのは馬鹿か、金がある人間か、その両方の条件がそろっているものに限られていたのである」この文章からも、日本の都市生活者の主流が借家住まいだったことがわかる。

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